大判例

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大阪高等裁判所 平成5年(う)947号 判決

Mに覚せい剤を譲渡した事実につき,原判決は,被告人の警察官調書の証拠能力を否定し,本件公訴事実を認めさせる証拠は譲受人であるMの証言と被告人の検察官調書だけであるとした上,そのいずれも信用性が認められないから,結局,本件公訴事実は犯罪の証明が認められないことに帰する旨判示したが,原判決の上記判断は以下のとおり是認することができない。

1 M証言の信用性について

原判決は,M証言につき,Mが被告人との覚せい剤取引に使用したというポケットベルの開設時期と両者の取引開始時期との前後等を理由にその信用性を否定するが,これらの指摘はいずれも是認できず,M証言の信用性は十分認めることができる。

2 被告人の検察官調書の信用性について

原判決は,被告人の検察官調書について,その内容が警察官調書のそれを受けたのにすぎない上,その警察官調書は,ポケットベルの関係で客観的事実に反するし,被告人とMが知り合った時期につき,被告人の認識と矛盾した内容となっていて,信用性を有しないから,検察官調書も信用性を有しないとするが,本件の背景事情にすぎない従来の取引の記載に誤りがあるからといって,その警察官調書の信用性までも否定するのは相当ではなく,被告人とMの関係についても,被告人の警察官調書のとおり認めるのが相当であって,原判決の説示は失当である。

3 被告人の警察官調書の証拠能力について

原裁判所は,被告人の警察官調書が刑訴法322条1項の供述録取書に該当しないとして,その証拠能力を否定し,検察官の証拠調べ請求を却下しているが,その理由とするところは,①ポケットベルについての記載が客観的事実に反するし,Mと知り合った時期についても,被告人の原審供述と違う記載がされている。②その客観的事実に反する部分を含めて,調書の記載内容がM証言とほとんど一致している。③上記調書は,取調べ警察官が「内偵状を書く」ためとして被告人に白紙の調書用紙に署名指印させたものを利用し,被告人の供述に基づかずにMの供述に合わせて作成した疑いがある,というものである。

しかしながら,①については,被告人の検察官調書の信用性で判断したとおりであり,また,②については,前示のように信用性を認めて差し支えないM証言とその内容が一致していることを理由に証拠能力を否定することはできない。

次に,③について判断する。被告人は,原審及び当審を通じ一貫して,被告人を取り調べた警察官Fが内偵状を書くためと称して,被告人に白紙の調書用紙に署名指印させた旨供述している。しかし,その供述内容を子細に検討すると,被告人が署名指印したという調書用紙の枚数,署名指印の回数,カーボン紙の使用など,重要な点が不明確であり,この点,取調警察官から捜索令状をとるための内偵状の作成に必要であるとの説明まで受けたとし,それに従って白紙調書に署名指印すれば,他にどんな累を及ぼすかもしれない異常な事態であることを考えると,その曖昧さは単に記憶の薄れということで説明はできないと考えられる。

被告人は,また,Fのみならず,取調べ検察官のKbに対しても,本件公訴事実を否認したと供述するが,この供述は,Kbの原審証言及び被告人の検察官調書に照らして到底信用できないのであり,さらに,Kbに対し本件公訴事実を否認したところ,同人から警察官調書を見せられたので,そんな調書は知らないと主張したとしながら,その際,Fから白紙の調書に署名指印させられたという弁解を全くしていないのは理解できない。そのほか,警察官調書の控えの存在(明らかにカーボン紙が使用されているところ,調書への指印はカーボン紙を通さないから,署名の数より複写枚数だけ多くなるはずであるが,被告人の供述にこれを裏付けるものはない。)や,いわゆる内偵状が使用されて捜索が行われた形跡がないことなどを考えると,被告人の前示供述はたやすく信用することができない。

結局,取調べにおいて,被告人は本件公訴事実を素直に認め,ただその営利性につき種々の弁解をして争っていたので,被告人の供述どおり調書を作成し,これを読み聞けの上署名指印させた,白紙調書に署名指印させた事実はないとするFの証言は,Kmの当審証言及び本調書の内容に符合しており,信用して差し支えないと考える。

そうすると,③もまた理由がなく,そのほか,被告人の警察官調書を刑訴法322条1項書面としてその証拠能力を問題とすべき事情は見当たらない。

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